ベーカー嚢腫は、1877年にBaker氏によって報告された膝窩部に生じる嚢腫です。多くの場合、半膜様筋腱と腓腹筋内側頭の間の滑液包の腫脹として発生します。この嚢腫は膝関節包の延長部分に形成され、関節液(滑液)で満たされています。
ベーカー嚢腫は膝の過度な使用によって起因します。半月板損傷や変形性膝関節症などの合併症が要因となることもあり、膝関節内の圧力が上昇し、関節液が後方に押し出されて嚢腫を形成すると考えられています。
症状がない場合や軽度の場合は、特別な治療を必要としないことがあります。膝への負担を軽減し、経過を観察することが推奨されます。
また、ベーカー嚢腫が破裂した場合は、筋肉間などに内容物が流入し、血栓性静脈炎に類似した症状を呈するため、この病態は偽性血栓性静脈炎(pseudothrombophlebitis)と称されます。
その場合の治療は、安静と消炎鎮痛剤などによる保存的治療で症状の改善が得られることが多いです。ベーカー嚢腫が破裂すると、囊腫内容物が下腿の筋間に入り込んだ結果として、小血管が破綻し出血を伴うことがあります。そのため、膝の疼痛や下肢腫脹が発症してから数日後に足関節周囲に皮下出血が出現するため、誤って深部静脈血栓症と診断されてしまうことがあります。
下肢深部静脈血栓症とベーカー囊腫破裂の鑑別は超音波検査が有用であるとされています。診察には注意深い問診と超音波所見を軸とした慎重な判断のもと、本疾患を鑑別してから治療にあたることが重要です。